思えば2月のこのときに「Tokyo」の原型を聞かせてもらってたのだ。そのときは衝撃を受けたなぁ。まぁかなり酔っぱらってたのもあるんだけど、でも世界が音楽でぐにゃーと曲がった気がしたのはアルコールのせいじゃないと思う。
三浦さんと出会ってちょうど一年ぐらいかな。四色とかりたーんずとかわが星とかあって、このアルバムと5日のお披露目会があって思うところも多々あるけども、総論みたいなことはきっともっとうまい人が書いてくれるはずだからすごく単純に一曲一曲の感想を書いてみようと思う。どこに需要があるのかわからないけれど。
ぜひ曲を聞きながらどうぞ。あとネタバレもしてますのでお気をつけて。曲のネタバレってなんだよって話ですよね。
1.Everyday
早速、言葉の切り貼りでフィールドレコーディングを一気に聞かせる。これで手法がほぼ伝わる。
頭に一回、限界を見せたほうがその境界線を観客も楽しめるようになるという構成手法を野村さんに教わって「わが星」ではそうしてるつもりなんだけど、この曲もそうだと思う。曲の構成と歌詞でこのアルバムの世界を高らかに宣言してる。だからラストに繰り返されるHOOKが今度はより迫ってきて、その潔さとこれからの期待に感動してしまう。うおーこれからどこまで連れてってくれるんだーって感じ。
ちなみに「四色の色鉛筆があれば」から4作品全部のセリフが使われてます。あと神里くんの「グァラニー」も。日常の会話と演劇のセリフはやっぱり違ってて、それがアクセントになるという三浦さんの言葉に納得。自分のDVDなんか見られないんだけど、この曲はいくらでも聞ける。
2.Good Morning!
鮮やかに扉が開くイメージの1曲目を引き継いではじまる2曲目。開くのは扉じゃなくてまぶた。目覚めの曲。ここで勘の良い人はこの後の展開を予感してにやにやしてしまうはず。この曲はフィールドレコーディング度は低めなんだけど、それはわざと。1曲目で一気に100を見せてるから、ここでまた0に戻る。0っていうのはいわゆる「楽器で奏でられた普通の曲」。そして最後にやっと扉を開く音が入る。玄関を出て、街に出るのだ。街はもちろん音の宝庫なわけで。
3.Tokyo
完璧。日常と音楽と物語とラップと歌と自由自在。中央線で聞くとなお最高。浮かび上がるような感覚になります。歌詞もいいんだよなー。ポジティブっぽいメロなんだけどやけに無常観がある歌詞で。雨が降ってるのは野上さんの作詞だろうか。晴天じゃないのがにくい。これをここまで楽しめるのは1曲目、2曲目の構成があったからだと思うんですよ。いきなりこれだけ聞いたのと前2曲を聞いてから聞くんじゃ、音に対する感度が絶対に違う。これを2月に吉祥寺駅(!)で聞いたわけで、そりゃ酔っ払ってなくてもめまいすると思う。こういう演劇を作りたいと思う。「わが星」の駅名連呼と永井さんと黒岩さんのデュエットはもろにこの曲に影響されてます。
4.卒業
これもデモを聞かせてもらった曲。まさかこんな名曲になるとは。イントロが「蛍の光」のサンプリングだって気がつかされて驚愕する。サンプリングとは何なのかを今一度、世に知らしめてると思う。曲を切って貼ったらサンプリングじゃないんですよ。発明するということ、HIPHOPという思想あってこそのサンプリング。そして校歌が目の前(耳の前?)でサンプリングされて曲になる。三浦さんの声が聞こえたときにぞくっとするはず。この曲を聞くとそれぞれが、それぞれの卒業式を思い出すと思う。それって僕も「反復」なんかで挑戦してたこと。それを音楽で、卒業式でやっちゃうのがすごい。たぶん、ただ卒業式を録音した音よりも、この曲の方がより強く卒業式を思い出させるんじゃないかな。人間は見たまま聞いたままを記憶してるのではなくて、自分で世界を抽象化して記憶してると思う。だからこの曲は記憶の形そのものにより近いんじゃないかと思う。ちなみに僕はそれを純粋記憶と名付けてて、だからこの曲はまさに純粋記憶再生装置。UNITで聞きながら自分が体育館にいるような感覚になった。ちなみに校長先生がK DUB SHINEを引用してます。なんてHIPHOPな校長先生だ!
5.海
インタールード的な曲。ここでまたフィールドレコーディング値100となる。良い構成だと思う。このまま次曲に突入されたら鼻血が出る。
6.ヒップホップの初期衝動
イントロの「サイタマノラッパー」の音は、録音してるときに一緒にいました(笑)。池袋のシネマロサでの上映後ライブ。このときの模様は雑誌りたーんずの「柴幸男の人生相談(する方)」に詳しく書いてあります。だから出だしで本当に記憶が呼び起こされてびびった。youtubeのアカペラが格好よすぎて感動的すぎて鼻血が出そう。歌詞やラップについてはもう言う事なし。ここ最近の士気を高めるときに聞く曲ナンバーワン。「あらゆるアイデアにHIPHOP応用し」はいやでも自分を投影してしまう。初期衝動に突き動かされてる人達全員への応援歌。泣ける。カラオケに入らないだろうか。歌いたい。言葉が光になるライブ装置は素晴らしかった。
ここまで書いてまだ半分もいってないことに気がつく。どんだけ濃いアルバムなんだ…。
7.有志の宝くじ
当たったー!環royとの曲がまさかこうなるとは思わなかった。これが初聴な人達はどう思うんだろうか(笑)。これもフィールドレコーディング。購入歴30年っていうのが大切。演技だけど演技じゃない。フィクションだけどフィクションじゃない。環royバージョンもぜひ聞いて欲しい。あまりの能天気さに笑ってしまう曲。でもちょっと本当に宝くじに当たった気になれるから不思議なんだよなぁ。代官山UNITでの演出ははまってましたねー。チケットと一緒に宝くじをもらったときはにやっとしました。あぁ、本気でやるんだなって。
8.温泉
温泉とうぐいすとベースが絡みあうというとんでもない曲。コーネリアスの「Drop」を思い浮かべる人もいると思う。僕もそうだった。でもスタートは一緒でもそれに「Drop」と名付けてあーするのと、「温泉」て名付けてこーするのではまったく違うと思うのです。目線が、感覚が、扱う手さばきが違う。届けようとする方向も違うだろうなぁ。てか「温泉」って。みんな普通に聞いてるけど、それはこの流れがあったから普通に聞けてるだけで、これそーとー変な曲だと思うんですけど。イッちゃってるとも言える。ライブも格好よかった。いとうせいこうのパート、水って!
9.moonlight lovers
アルバムのラフを聞かせてもらって一番、驚いた曲。「TONIGHT」に入ってそうな曲。イントロが格好良いんだ。最後に答え合わせのように虫の音とサンプリング元のホーンとストリングスが残る。そうなんだよなぁ。べつにこの手法は三浦さんは今までの曲でもずっとやってたことなんだ。でもあまりに巧みすぎてみんな気がつかなかった。それがフィールドレコーディングになって誰もがわかる形になったからみんな驚いてるだけで。いや、僕もわかってなかったですけど。だからこの曲を聞いてもう一度、「GOLDEN LOVE」や「TONIGHT」を聞いたらまた違った感想になると思う。口当たりの良い、いい曲だとしか思ってなかった曲が実は超絶技巧の曲だったり。ライブでは月の写真&映像が流れてて、なんとなく月ちゃんのことを思ったりしたのでした。
10.夢中
そして夢の中へ。まさに夢そのものを音源化・立体化しようとした意欲作。ポエトリーリーディングとセリフとラップの中間っていうのは僕がずっと挑戦してたことだからちょっと感慨深い。ラップをクロスフェードしたのは新しい感覚ではと三浦さんが言ってた気がする。そう思う。それに対して自分も「わが星」の永井さんと黒岩さんのデュエットラップで韻を前後ではなくて同時に聞かせるのは新しいのではと対抗してたような気がする。酔ってたんだな。サメ食べ過ぎてる。ライブの演出は抜きん出てたと思う。手動スクロールする歌詞、spacesによるVJ、最後は本当に雪に埋まる。意識的に三浦さんのラップが、実はオールドスクールで韻が固めになってるのが興味深い。
11.花見
特に言うこともない曲(笑)。でも意外とiTunesの再生回数が多い。ぐいぐいぐぐーいぐいぐいぐぐーい。ラップと宴会コールについては実はちょっと考えてる。
12.Re:Re:Re:
きました。最もへんてこなくせに最もPOPになってる曲。一見、J-POPでもその中身は相当キテる。いや逆か、こんなに挑戦的な曲をJ-POPに仕立て上げた手腕こそ恐ろしいのだ。だって架空の口説きメールを作って、それをやんわり断るメールもらって、その文章をサンプリングしてるんですよ。メールの演技って聞いた事ない。いや、文章で演技するってこと自体、新しいんじゃないのか。普通は文字→演技の流れだけど、演技→文字なのだ。エチュードとは違う何かがある。すいません、だいぶ酔ってきてますね。実は飲みながら書いてます、これ。今いわきのおいしい地魚屋さんっす。いま瓶ビール二本目。個人的には「えーってことは当日までー、予定わからないってこと、汗」の韻とフロウがパンチラインです。じゃあ電源切れそうなんで。返信はいらないっすー。
13.飽きる
最初にこの企画をクチロロブログで知ったとき、「ははーんこれがアルバムラストの曲だな」って思いました。だって路上ライブを録音って究極のフィールドレコーディングと音楽の融合じゃないですか。街で歌って、街で録音する。一発どりで。でもラストじゃないんですよねー。だからこの曲を聞いたときに、一体このアルバムをどう終わらせるのだろうと思った記憶があります。この「飽きる」っていうタイトルと歌詞がフィールドレコーディングそのものに向かってるような気がしました。そうなんですよ。実作者は新しい魅力的な手法と出会った瞬間から飽きてるんです。そして新しい何かを探し始めてる。そんな意味でこの曲の歌詞は、すごく感情移入できるという。ラストを客が歌いやすいようにラララにしてるところが心憎い。ライブではなんかグダグダでしたが(笑)。でもカラオケビデオになってたのはちょっと感動しました。みんなで歌うことへの上手い誘導だったと思います。
14.00:00:00
いやー、これは実は一番書くのが難しい曲です。「わが星」はこの曲の部品を借り受けて、総動員して作った作品です。この曲のデモが「わが星」製作中に届くたびに本当にひやひやしてました。一体、どうしたらこれに負けない作品を作ることができるだろうかって。クチロロ史上でも最も隙のない曲だと思います。構成がすごく緻密で計算されつくされてるのに、ものすごくエモーショナルで。サビが出るタイミング、曲の展開、ストリングスが入ってくるタイミング。もう本当に完全だと思います。だから僕はPV版より、断然8分バージョンを押します。時報に関してはユニクロックという前例があるわけですが、この曲にはものすごく強度の高い物語が存在してて、本当に時報と時間を音楽にすることに成功したのはこの曲だと思ってます。「わが星」がなくてもこの曲は存在したわけですが、この曲がなくては「わが星」は存在しませんでした。次は負けないようにがんばります。
15.everyday is a symphony
このアルバムを聞いたとき最も感動した曲です。それは、普通に良い曲ってことだけではなくて。この曲でクチロロがフォールドレコーディングオーケストラという大発明と功績を、軽やかに手放したことに感動したのです。最後の最後で、良い曲+環境音という非常にオーソドックスな方法を敢えて使うことで、新しい旅立ちを宣言してる。新しい手法を見つけてしまうと、どうしてもそれを手放さないように握りしてめてしまうものです。それが人情。でもそうではない、もうやり切ったよ、可能性は広げたよと周りに優しく語り、そのまま、もう一度、扉を開けて「いってきます」と言う。その立ち振る舞いを鮮やかにアルバム最終曲でやってみせる。「飽きる」で終われなかった流れが、もっと美しい方法で終わったことに、もう本当に感動しました。そして次の作品へと期待を抱かせる。そのヒントはこの曲にあると思います。「TONIGHT」の最終曲を今聞くとこのアルバムへの布石を感じられるように、もうクチロロは次の新しいものを見つけていて、こっそりこの曲に忍ばせているのです。
ってな感じで本当に一曲ずつ感想を書いてみました。自分が今までと同じように、まったく三浦さんと知りあうことなくこのアルバムに出会ってたらと思うとぞっとします…。老若男女、日本中の人に聞いてもらいたい音楽です。ジブさんが卒業を気に入ってるのは意外でしたけど。